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高知地方裁判所 昭和33年(行)3号 判決 1963年10月30日

須崎市須崎七六番地

原告

東洋スレート株式会社

右代表者代表取締役

松坂有常

右訴訟代理人弁護士

上田直吉

市須坂

被告

須坂税務署長

笠井一一

右指定代理人検事

村重慶一

同高知地方法務局訟務課長

今井秀吉

大蔵事務官 片岡甲子夫

右当事者間の法人税査定金額に対する更正決定取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

被告が原告に対し、昭和三二年二月二日付でなした原告の昭和三〇年度分の法人所得金額を九〇万六、七〇〇円とする決定のうち、所得金額五万六、七九五円を超える部分は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  原告の主張(請求原因)

(一)  原告は、洋瓦およびセメントによる各種物品の製造ならびに販売、その他建築材等の販売を目的として、昭和二九年八月に設立された株式会社であるところ、被告から昭和三二年二月二日付で原告の昭和三〇年度分の法人所得金額は一二三万一、一〇〇円、法人税額は四六万七、四四〇円、無申告加算税は一一万六、七五〇円であるとの決定を受けた。

(二)  原告は被告に対し、同年三月二日右決定に対する再調査の請求をしたところ、被告は同年四月一八日付第三一四号を以て右請求を棄却した。そこで、原告は直ちに高松国税局長に対して審査の請求をしたところ、同局長は右被告の決定のうち、所得金額九〇万六、七〇〇円、法人税額三三万七、六八〇円、加算税額八万四、四二〇円を超過する各部分を取り消し、該決定は同三三年三月一五日原告に到達した。

(三)  しかし、原告の昭和三〇年度分の法人所得金額は五万六、七九五円、法人税額は一万九、八七八円二五銭であり、被告のなした決定は右原告の所得金額を過大に評価した違法があるので、右原告主張の法人所得金額を超える部分の取り消しを求める。

二  被告の答弁ならびに主張

(一)  請求原因事実中、第一、二項の事実は認める。第三項の事実は否認する。

(二)  原告の昭和三〇年度における営業内容は別紙損益計算対比表被告欄記載のとおりであつて、その法人所得金額は一三六万二二七円である。すなわち、被告は以下のような方法により原告の所得金額を算出したものである。

1 被告は、原告の法人所得金額につき、以不の理由から法人税法第三一条の四第二項の規定にもとづいて、原告の原材料消費量から売上金額を推定する方法によるほか原告の各帳簿を根拠としてその所得金額を推計して認定したものである。

(1) 原告会社は、代表取締役訴外亡松坂正喜(同人は昭和三二年九月死亡し、その後同人の長男松坂有常が代表取締役に就任)およびその親族等が株式の七五パーセントを有する法人税法にいう同族会社であつて、その営業内容は不明確である。

(2) 原告は、法人税法第二五条に規定する青色申告書提出の承認を受けていない法人であつて、昭和三〇年度所得については被告の数回の督促にもかかわらず申告書を提出しなかつた。

(3) 原告の諸帳簿は不完全で企業取引の実体を正確に表示していない。すなわち、

a 被告が昭和三二年一月一七日原告方に調査に赴いた際、原告方に備置されていて呈示を受けたものは、現金出納帳、納品明細書控、小切手帳発行控、期未売掛金明細表、スレート期首および期未棚卸表のみであつたにもかかわらず、被告のなした原決定後に、原告は再調査請求のため貸借対照表、損益計算書、期未棚卸表を作成してこれらを提出し、さらに高松国税協議団高知支部所属協議官の審査の際、はじめて仕入帳、売上帳、総勘定元帳、賃金台帳、入出金伝票、領収書を呈示している。

b(イ) 原告の納品明細書(甲第六、七号証)は、いずれも一冊が三枚複写式の一〇〇枚綴りとなつているが(甲第六号証は四冊、同第七号証は七冊)、その欠落枚数が甚しく多く合計二五四枚に上つている。

(ロ) 右の納品明細書備考欄に記載のない入金額で、売上帳(甲第五号証)に計上されているものがある。

(ハ) 右売上帳のうち、納品明細書のない売上金額の記載があるものとして、訴外西森昇に対する売り上げほか一五件あり、その合計売上金額は一八万五、九二六円である。

(ニ) 売掛金について、売上帳の記載は納品明細書の記載と対比すると、訴外津野為治に対する売掛金ほか四八件について一致せず、そのため売上帳の記載において一〇万四、〇三四円少額となつている。

(ホ) 売掛金の記載内訳と大口得意先元帳(甲第五号証の売上帳の一部)の記載の一致しないものが数件ある。

(ヘ) 原告作成の昭和三〇年度における原告のスレート売上数量明細書(乙第二号証)記載の同年度における売上数量二七万六、三三六枚と納品明細書記載の合計数量との間に二万六、三八二枚の相違がある。

(ト) 訴外大正営林署に対する売り上げの記載は、事実と相違している。

(チ) 納品明細書(一)(甲第六号証)記載の檮原農協に対する昭和三〇年四月一四日の売上金額六万三、四四〇円のうち、同年三月三一日に三万円を、広瀬能治に対する同年六月一二日の売上金額一万二、九五〇円のうち、同年二月一八日に五、〇〇〇円を、明神俊基に対する同年七月三一日の売上金額二万一、九〇四円のうち、同年二月一四日に一万五、〇〇〇円をそれぞれ入金しているが、これらはいずれも入金年月日のいかんにかかわらず昭和三〇年度分の売上金額とすべきであるにかかわらず、原告の売上帳にはこれらがいずれも記載されていない。

(リ) 原告において、スレート製造に関する記録が全くなされていないので、棚卸製品の正当な評価が困難である。

以上のように、帳簿の記載自体において甚しく杜撰であるのみならず、スレートの主要原料たるセメントの使用量は七、六一六袋と算出され、これを基準としてセメント一袋当りのスレートの製造枚数、当期の販売枚数、当期販売単価の最低価格等から算出しても、原告の概算売上高は八三二万円強(スレート瓦以外の売上をも加える。)となり、この低目の金額においても優に原告主張額をはるかに上廻り、前記帳簿内容の杜撰と相俟つて、右帳簿には真実の営業が記載されているものとは認め難く、該帳簿から直接原告の所得を算出し得ない。

2 各勘定科目の算出は、別紙損益計算対比表記載のとおり、原被告間に争いのある部分は、期首棚卸高、材料仕入高、総売上高、期末棚卸高の各勘定科目であつて、右争いのある科目についての算出根拠はつぎのとおりである。

(1) 期首、期末棚卸高

期首、期末棚卸高は、別紙期首、期末現在棚卸高対比表被告欄記載のとおりであつて、その数量については争いがなく、その単価について争いがあるものである。そして、その単価は以下のとおり各認定した。

a スレートの棚卸単価(期首、期末)

本件のように棚卸資産の評価方法の届出のない場合の棚卸資産の評価方法は、法人税法施行規則第二〇条の二の法定評価方法により、最終仕入原価法によつて算出すべきところ、原告の帳簿が不明確なため右評価方法によることが不可能なので、一応平均単価を算出したうえで、製造原価総額のうち最大の割合を占めるセメントの期首、期末における瓦一枚当りの消費額差額単価を以てこれを修正した額をその単価と認定した。その数式はつぎのとおりである。

(a) 総平均法による単価

<省略>

(製造原価から酸化鉄塗料費を控除するのは酸化鉄塗料費は赤色スレートのみに使用されるからである。

<省略>

(b) セメント消費額による期首期末平均差額

<省略>

<省略>

<省略>

期首、期末の各平均額との差(上記差額)

(期首)=9.72-9.90=0.18

(期末)=9.72-9.21=0.51

(c) 総平均法に対する上記差額による修正単価

<省略>

(期首) 白色スレート=15.30+0.18=15.48

赤色スレート=17.50+0.18=17.68

(期末) 白色スレート=15.30-0..51=14.79

赤色スレート=17.50-0.51=16.99

なお、製造原価、酸化鉄、塗料費、セメント総消費額は別紙製造原価表により、製造瓦総数、一袋当り製造瓦数は後記売上高算定により推計されたものによる。

b セメント(期末)

最終仕入原価法により、原価が期未から最も近い日である昭和三一年三月二六日に仕入れたセメント一袋当り四〇〇円を以て単価と認定した。

c 砂利(期首、期末)

右同様の方法により、原告が期首に最も近い昭和三〇年四月二日坪一、六〇〇円で仕入れたものを期首の、期末に最も近い昭和三一年一月五日坪一、五〇〇円で仕入れたものを期末の、各単価とした。

d フエルト(期末)

前同様の方法により、原告が期末に最も近い昭和三一年二月八日一巻二八〇円で仕入れたものを単価とした。

e 酸化鉄(期首、期末)

前同様の方法により、酸化鉄一袋当り三五キログラムとして原告が期首に最も近い昭和三〇年四月三日仕入れた一袋当り五四三円九〇銭を期首の、期末に最も近い昭和三一年一一月二五日仕入れた一袋当り四六九円を期末の、各単価とした。

f 釘(期首、期末)

前同様の方法により、原告が期首に最も近い昭和三〇年五月一三日仕入れた一貫三二〇円を期首の、期末に最も近い昭和三一年一月一四日仕入れた一貫二六五円を期末の、各単価とした。

(2) 材料仕入高

材料仕入高は、別紙品目別仕入金額対比表被告欄記載のとおりであつて、争いのある部分についての算定はつぎのとおりである。

a セメント

訴外株式会社田部商店の原告に対する売上金額から、つぎの方法によつて算定したものでる。

仕入高=(売上総額)-(期首繰越)-(セメント以外の売上分)+(松坂幸有名義)=3,315,976-258,536-14,640+252,000=3,294,800

b フエルト紙

原告が訴外入交産業株式会社から仕入れた一一万九、三七〇円と株式会社田部商店から仕入れた九、二二〇円の合計額一二万八、五九〇円を以て認定した。

c 釘、針金

原告が昭和三〇年一月一四日訴外中津金物店から仕入れた釘代金四万二、五〇〇円のうち昭和三〇年度末現在において未払となつている二万円は原告主張金員(前記品目別仕入金額対比表欄記載)に含まれていないので、これを原告主張の金員に加算したものである。

d その他

原告仕入帳記載金員のうち、株式会社田部商店から仕入れたとする一万二、四三六円(漆喰一万一、七九六円、石灰二四〇円)は、五、四二〇円(漆喰四、四二〇円、石灰一、〇〇〇円)であつて、その差額七、〇一六円だけ被告主張金額は異なる。

(3) 総売上高

原告の主要営業品目であるスレートおよびフエルト紙等の売上を推計して合計九二八万八、八六二円と認定した。

そして、その算定方法はつぎのとおりである。

a スレート

スレートの製造枚数の正確な把握が困難なので、主要材料であるセメントの消費量から逆算して製造枚数を推計して売上金額を算出した。その詳細はつぎのとおりである。

(a) セメント消費量

消費総量=(原告名仕入量)+(松坂幸有名仕入量)+(期首有高)-(期末有高)-(セメントのままの転売)=7,215+600+434-31-602=7,616袋

(b) セメント一袋当りスレート製造枚数

日本工業規格によれば、一袋当り42枚ないし45枚が、各瓦のうち最も生産の多い地瓦一種(1坪36枚取り)の平均枚数とされるが、原告と同様スレートの製造をなしかつ近接した高知市港町7番地訴外南海スレート株式会社の本件係争年度における製造枚数は、一袋当り43.4枚であつて、同訴外会社は青色申告法人で記帳処理も明確でその製品の品質も良好であるから、同訴外会社の製造数量の平均を以て本件推計計算の基礎とする。

(c) スレート製造枚数

(c)=(a)×(b)=7,616×43.4=330,534枚

(d) スレート破損枚数

上記南海スレート株式会社の被損率を上廻る製造から出荷前までの間および出荷から買主に届くまでの間の各0.63%を適用する(見本贈呈枚数を含む。)

(イ) 製造から出荷前までの間における破損枚数

(c)×0,63=330,534×0.63=2,082

(ロ) 出荷から買主に届くまでの間における破損枚数

{(c)-(イ)}×0.63=(330,534-2,082)×0.63=1,973

(a)=(イ)+(ロ)=2,082+1,973=4,055

(e) 売上スレート総枚数

(e)=(スレート製造枚数(c))+(期首有高)+(仕入スレート)-(期末有高)-(破損枚教(a))

=330,534+42,183+1,556-58,898-4,055=311,320枚

(f) 原告納品書記載枚教のうち脱漏とみなされる枚教

(f)=(e)-(原告納品書記載枚教)

=311,320-249,954=61,366枚

(g) スレート一枚当りの販売価格

原告納品書記載の総売上額と販売数を基準として算定する。

(イ) 全瓦=(売上金額)÷(売上枚教)

=7,078,295÷249,954=28.31円

(ロ) 地瓦=(売上金額)÷(売上枚教)

=4,633,527÷178,874=25.90円

地瓦は全瓦の71%を占めるものであるから、本件の推計計算の販売価格単価は上記の(ロ)=25.90円による。

(h) 原告納品書記載のうち脱漏金額

(h)=(f)×(g)

=61,366×25.90=1,589,379円

(i) スレート売上総額

(i)=(原告納品書記載額)+(h)

=7,078,295+1,589,379=8,667,674円

b フエルト紙等の売上金額

原告納品明細書のとおり七〇万八二〇円と認定した。

c 純売上額

原告納品明細書による値引率に従つて、つぎのように値引きを行ない純売上額を算出した。

(a) 値引率

<省略>

(b) 純売上高

(b)=(総売上高(a+b))-(総売上高×0.85)

=8,667,674+700,820-(右合計9,368,494×0.85)

=9,288,862

(三)  以上により、被告は原告の昭和三〇年度における法人所得金額を一三六万二二七円と認定したものであり、その限度内においてなした本件決定は適法である。

三  被告の主張に対する原告の答弁ならびに主張

(一)  原告の昭和三〇年度における営業内容は、別紙損益計算対比表原告欄記載および同貸借対照表記載のとおりであり、その内訳は別紙期首、期末現在棚卸高対比表、同品目別仕入金額対比表の各原告欄記載のとおりであつて、右に反する被告主張部分は否認する。

(二)  本件は推計課税をなし得る場合に該らず、原告の備置する各帳簿にもとづいて実質課税をなすべきである。

原告の諸帳簿は取引の実体を正確に表示している。

この点に関する被告主張の(二)の1の(1)、(2)の事実中、原告が青色申告書提出の承認を受けていない同族会社であること、原告が昭和三〇年度の申告書を提出しなかつたこと、同(3)のbの事実中(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ヘ)、(チ)および(ホ)の事実中、若干の相違があること、(リ)の事実中、原告においてスレート製造に関する記録を全くしていないことは、いずれも認めるが、その余の点はすべて否認する。

被告は、原告は当初その諸帳簿を呈示せず後日に作成したものであると主張するが、昭和三二年一月一七日の第一回の調査の際には係員不在のため原告から延期されたい旨を懇願したにもかかわらず、簿冊類不明のまま調査を強行したものであり、また貸借対照表、損益計算書、期末棚卸表等の書類は計算上当然作成できるものであつて、これ等が所得額決定後に作成されたからといつて不正なものではない。なお、諸帳簿の一部に誤記や脱漏等の不都合な部分があつたことは認めるが、それは原告会社設立後二年も経過しない小会社の経営者や係員等の不慣れによる単純な計算違いや記帳漏れにすぎなく、容易に補正できるのであり、かつそれらの過誤はいずれも、現在に至るまでに訂正済みであつて、各帳簿は正確に取引の実例を表示しているものである。

(三)  仮りに、本件が推計を許す場合であるとしても、原告は前記のように原告主張の各金額に反する被告の推計を争う。特に総売上高において南海スレート株式会社の製品破損率等を基準とするが、原告は事業をはじめたばかりの会社で新たに販売路を開拓しなければならず、他社よりは一段と優良品の製造を要求されていた事情にあり、その製品を右南海スレート株式会社のそれと比較すると、

(原型スレート地瓦無着色)

<省略>

右表のように格段の差があり、仮りに、南海スレート株式会社がセメント一袋につき平均四三・三枚の製品ができるとすれば、原告は一袋につき平均三五枚位の製品ができるにすぎないものであるから、被告の推計方法は妥当でない。

第三立証関係

一  原告

甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし五を提出、但し、第三号証の作成日付昭和三二年二月一八日は誤記で、昭和三三年二月一九日である。

証人下村正喜、松坂吉教、中畠数一、沖通盛、山崎為吉、桑原嘉吉、松坂勇喜、矢野重久、矢野芳太郎の各証言、原告会社代表者松坂有常の尋問の結果、(第一、二回)を援用、

乙第一号証の一、二の成立は否認、同第二号証、第五、六号証、第八号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし八、第一三号証の一ないし五、第一四号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

乙第一号証の一、二、第二ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし八、第一三号証の一ないし五、第一四号証を提出、

証人上岡遊亀、八木亀次、松浦正一、沢田悦馬、三谷豊樹の各証言援用、

甲第四号証の四、第一〇号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、原告が洋瓦およびセメントによる各種物品の製造ならびに販売、その他建築材等の販売を目的として、昭和二九年八月に設立された株式会社であり、被告から昭和三二年二月二日付で原告の昭和三〇年度分の法人所得金額は一二三万一、一〇〇円、法人税額四六万七、四四〇円、無申告加算税は一一万六、七五〇円であるとの決定を受け、被告に対し同年三月二日右決定に対する再調査の請求をなしたが、同年四月一八日付第三一四号を以てこれが請求を棄却されたので、さらに高松国税局長に対し審査の請求をしたところ、右被告の決定のうち、所得金額九〇万六、七〇〇円、法人税額三三万七、六八〇円、加算税額八万四、四二〇円を超過する各部分が取消され、該決定は同三三年三月一五日原告に到達したことは当事者間に争いがない。

二、被告は、原告会社は法人税法にいう同族会社であつてその営業内容が不明確であり、同法に規定する青色申告書提出の承認を受けていない法人であるにもかかわらず、昭和三〇年度所得については被告の数回に亘る督促に対しても申告書を提出せず、その諸帳簿は不完全で企業取引の実体を正確に表示していないこと等から同法の認めるところにより推計によつて原告の所得を算定するの外ないと主張し、原告はこれを争い原告の備置する各帳簿にもとづいて実質課税をなすべきで、これによつて算定すると原告の昭和三〇年度の法人所得金額は五万六、七九五円、法人金額は一万九、八七八円二五銭である、と主張するので、まず右推計が許されるかどうかについて判断する。

(一)  原告会社が法人税法に規定する青色申告書の提出の承認を受けていない同法にいう同族会社であることおよび昭和三〇年度の法人所得申告書を提出しなかつたことは当事者間に争いがなく、原告会社代表者松坂有常の尋問(第一回)の結果によると、右の申告書の提出について被告から督促を受けていたことが認められ、右の認定に反する証拠はない。

(二)  証人上岡遊亀、八木亀次の各証言によると、被告の職員訴外上岡遊亀が昭和三二年一月頃、原告方に数回調査のため赴いたが、いずれも責任者不在との理由でその目的を遂げなかつたこと、そして同月一七日原告会社代表者松坂有常らの立ち合いで右調査したが、その際に提出された帳簿類は現金出納簿、銀行関係の書類、棚卸明細書、納品明細書(一)、(二)(甲第六、七号証)だけであり、以上が原告作成の帳簿類のすべてであり、決算書類は未作成である旨の右松坂有常の申出があつたこと、その後原告調査請求により、右上岡が再度原告方に調査に赴いた際にはじめて貸借対照表、損益計算書が提出されるに至つたこと、さらに原告の高松国税局長に対する審査の請求により、その後高松国税局協議団高知支部の訴外八木亀次が原告方に調査に赴いた際には、貸借対照表、損益計算書、財産目録、棚卸表(甲第四号証の二ないし五)、売上帳、納品明細書(一)、(二)、仕入帳、元帳(甲第五ないし第九号証)、金銭出納簿領収書綴、賃金台帳等が提出されるに至つたことがそれぞれ認められる。右の認定に反する前顕原告会社代表者松坂有常の供述部分は右の各証拠と対比するとにわかに信用できず、他に該認定を右左するに足りる資料はない。

(三)  成立に争いのない甲第四号の二ならびに前顕証人上岡遊亀の証言によると、原告は昭和二九年度は欠損で納税していないにもかかわらず、昭和三〇年度の貸借対照表には繰越利益が計上されていることが認められ、前顕原告会社代表者松坂有常の供述も右の認定に反するものとは解されず、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  原告の納品明細書(一)、(二)(甲第六、七号証)は、いずれも一冊が三枚複写式の一〇〇枚綴りとなつているが、(甲第六証は四冊、同第七号証は七冊)、その欠落枚数が甚しく多く合計二五〇枚に上つていることは当事者間に争いがない。

(五)  右の納品明細書(一)、(二)と原告の売上帳(甲第五号証)とを対比すると、納品明細書備考欄に記載されていない入金額で、売上帳に記載されているものがあることは当事者間に争いがない。

(六)  右売上帳のうち、納品明細書のない売上金額の記載があるものとして西森昇に対する売り上げほか一五件あり、その合計売上金額は一八万五、九二六円であることは当事者間に争いがない。

(七)  右売上帳と納品明細書とを対比して売掛金についてみると、津野為治に対する売掛金ほか四八件について一致せず、そのため売上帳の記載において一〇万四、〇三四円少額となつていることは当事者間に争いがない。

(八)  成立に争いのない甲第五号証によると、売掛金の記載内訳とその大口得意先の記載の一部が一致していないものが訴外山中敏郎ほか六件あることが認められ、右の認定に反する証拠はない(右の点につき若干の相違のあることは当事者間に争いがない)。

(九)  原告作成の昭和三〇年度における原告のスレート売上数量明細書(乙第二号証)記載の同年度における売上数量二七万六、三三六枚と右納品明細書記載の合計数量との間に二万六、三八二枚の相違があることは当事者間に争いのないところである。

(一〇)  その方式、趣旨により公文書であると認められるので真正に成立したものと推定する乙第一号証の一、二によると、原告の大正営林署に対する売上げは同号証に記載のとおりであると認められるところ、原告の納品明細書(一)(甲第六号証)と対比すると、その記載は右認定の事実と相違していることが認められ、右の認定に反する前顕原告会社代表者松坂有常の供述部分は右の証拠と対照するとにわかに信用できず、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一一)  原告の納品明細書(一)(甲第六号証)記載の檮原農協に対する昭和三〇年四月一四日の売上金額六万三、四四〇円のうち、同年三月三一日に三万円を、広瀬能(又は態)治に対する同年六月一二日の売上金額一万二、九五〇円のうち、同年二月一八日に五、〇〇〇円を、明神俊基に対する同年七月三一日の売上金額二万一、九〇四円のうち、同年二月一四日に一万五、〇〇〇円をそれぞれ入金しているが、これらはいずれも入金年月日のいかんにかかわらず昭和三〇年度分の売上金額とすべきものであるにかかわらず、原告の売上帳(甲第五号証)には、これがいずれも記載されていないことは当事者間に争いがない。

(一二)  原告においてスレート製造に関する記録が全くなされていないことは当事者間に争いがなく、従つて、棚卸製品の正当な評価が困難であることは明らかである。

以上認定の事実に徴すると、原告は被告の調査に対して協力態度を示さず、原告方帳簿組織ならびにその記載は甚だ杜撰、粗漏であつて、到底原告の営業内容が真実に記載されているものとは認められず、従つてこれらの帳簿により原告の所得を直接算出し得ないものと断ずる外なく、法人税法所定の推計の方法により算定するのが相当であると認める。

三  そこで、つぎに被告主張の推計の方法による原告の昭和三〇年度の法人所得金額の算定の当否を検討する。

(一)  各勘定科目の算定については、別紙損益計算対比表記載のとおり、期首棚卸高、材料仕入高、総売上高、期末棚卸高の各勘定科目を除く、その余の各勘定科目の金額については当事者間に争いがない。

(二)  期首、期末棚卸高について

期首、期末各棚卸高については、別紙期首、期末現在棚卸高対比表記載のとおり、いずれもその数量、ならびに期首棚卸のセメント、フヱルトの各棚卸金額については当事者間に争いがない。

1  スレートの棚卸単価(期首、期末)

法人税法上棚卸資産の評価方法は同法施行規則第二〇条に規定されている評価方法のいずれか一つの方法を法人が選定して政府に届け出た方法により評価すべきところ、原告は右の届出をしていない(この点は原告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。)ので、同施行規則第二〇条の二の規定により最終仕入原価法につて算出すべきところ、前示のように原告の諸帳簿が不備、不明確であるためこれによることが不可能であるから、一応総平均法によりスレート一枚当りの単価を算出する。すなわち、製造材料のうち赤色スレートの製造についてだけ使用する(この点は原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。)酸化鉄および塗料の消費額四八万六、一六六円(これは別紙製造原価計算書記載のとおりであつて、酸化鉄の期首期末の原価は後記5において認定のとおりであり、酸化鉄および塗料の期中仕入原価は別紙品目別仕入金額対比表記載のとおり当事者間に争のないところである。)を製造原価総額五五四万五、五四六円(別紙製造原価計算書記載のとおりであり、うち酸化鉄および塗料の原価は前説示すとおりであり、うち労務費、厚生費、動力費、用水費、修繕費、消耗品費が原告作成の製造原価明細書どおりであることは成立に争いのない乙第一〇号証によつて認められ、うちセメントの期首の原価は別紙期首現在棚卸高対比表記載のとおり、砂利の期中仕入原価は別紙品目別仕入金額対比表記載のとおり、いずれも当事者間に争いがなく、セメント期中仕入原価は後記(三)の1セメントの材料仕入高のところで認定のとおり、セメントの期末の原価は後記(2)において砂利の期首、期末の各原価は後記(3)において各認定のとおりであり、さらに、前顕乙第一〇号証によると原告は製造原価のうちに工場、倉庫の賃借料相当分九万円を計上していないが、これは製造原価に含まれるものであるから成立に争いのない甲第四号証の三の原告作成の損益計算書に記載されている賃借料一二万円のうちから右相当分を製造原価として計上したもので、右賃料相当分が九万円であることは、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべきである。)から控除した五〇五万九、三八〇円を昭和三〇年度におけるスレートの製造数量三三万五三四枚(後記(四)の1のスレートの総売上高算定のところで推計のとおりである。)で除して、白色スレートの一枚当りの金額を一五円三〇銭と一応計算し、赤色スレートについては、白色スレート製造のための材料の外に酸化鉄および塗料の合計消費額四八万六、一六六円を昭和三〇年度における赤色スレートの製造数量二二万一三五枚(総製造数量三三万五三四枚に成立に争いのない甲第六、七号証の原告の納品明細書(一)、(二)によつて認られる赤色およびその他の売上数量一六万六、四五三枚の合計売上数量二四万九、九五四枚に対する割合六六・六パーセントを乗じて算出される。)で除して、赤色スレートの一枚当り酸化鉄および塗料の金額を二円二〇銭と算出し、これに右白色スレート一枚当りの金額一五円三〇銭を加算した一七円五〇銭を赤色スレート一枚当りの金額と一応計算する。さらに、製造原価総額のうちにセメントの消費額の占める割合が大きい(別紙製造原価計算書により明らかである。)ところから、セメントの期首価額、期末価額によりそれぞれのスレート一枚当りのセメント消費額を計算し、これによつて右の総平均法によるスレート一枚当りの金額を最終仕入原価法による金額に修正して、期首、期末現在のスレートの評価額を算出する。すなわち、昭和三〇年度におけるスレート一枚当りのセメントの平均消費額を九円七二銭(別紙製造原価計算書記載のセメント合計消費金額三二一万三、六八〇円を前記スレートの合計製造数量三三万五三四枚で除した金額。)と算出し、一方期首におけるセメント一袋の仕入金額前記四三〇円であるので、これによつて期首のスレート一枚当りのセメント消費額を九円三〇銭(右四三〇円を後記(四)の1において推計するセメント一袋当りのスレート製造枚数四三・四枚で除した金額。)と算出し、両者を対比すると、期首セメントの消費額の方が多額であるので、両者の差額一八銭を前記総平均法により算出したスレート一枚当りの金額に加算すると、赤色スレート一枚当り一七円六八銭、白色スレート一枚当り一五円四八銭となるので、これらに各期首現在のスレート在庫量を乗じて、期首現在における赤色スレートは五二万六、六一六円、白色スレートは一九万一、九〇五円と算出される。期末現在におけるスレートの評価についても右の期首の場合と同様の方法によつて、期末におけるセメント一袋の仕入金額は前記四〇〇円であるから、これによつて期末のスレート一枚当りのセメント消費額を九円二一銭と算出し、これと期中平均スレート一枚当りのセメント消費額右九円七二銭とを対比すると、期末セメントの消費額の方が少額となるので、両者の差額五一銭を前記総平均法により算出したスレート一枚当りの金額から控除すると、赤色スレート一枚当りは一六円九九銭、白色スレート一枚当りは一四円七九銭となるので、これらに各期末現在のスレートの在庫量を乗じて、期末現在における赤色スレートは七四万三、九四一円、白色スレートは二二万三、九四一円と算出される。以上の算出方法は前記の事情のもとにおいては許される合理的な推計であるというべきである。そして、以上の算式は以下のとおりである。

(1) 総平均法による単価

<省略>

<省略>

(2) セメント消費額による期首期末平均差額

<省略>

<省略>

<省略>

期首、期末の各平均額との差(上記の差額)

(期首)=9.72-9,90=-0.18

(期末)=9.72-9.21=0.51

(3) 総平均法に対する上記差額による修正単価

(3)=(1)±(2)

(期首) 白色スレート=15.30+0.18=15.48

赤色スレート=17.50+0.18=17.68

(期末) 白色スレート=15.30-0.51=14.79

赤色スレート=17.50-0.51=16.99

2  セメント(期末)

成立に争いのない甲第八号証(原告の仕入帳)、弁論の全趣旨によりその成立の是認できる乙第三号証(訴外株式会社田部商店の売掛元帳の写)によれば、原告が昭和三〇年度の期末に最も近い日である昭和三一年三月二六日に右田部商店から買い受けたセメント一袋当りの価額は四〇〇円であることが認められ、右の認定に反する証拠はない。

従つて、最終仕入原価法により右四〇〇円を以つて、期末のセメントの一袋当りの価額と認めるを相当とし、これに期末現在のセメントの在庫量前記当事者間に争いのない三一袋を乗じて、期末現在におけるセメントの棚卸金額を一万二、四〇〇円と認める。

3  砂利(期首、期末)

前顕甲第八号証によると、原告が昭和三〇年度の期首に最も近い日である昭和三〇年四月二日に訴外橋本貢一から買い受けた砂利一坪当りの仕入金額は一、六〇〇円であり、同年度期末に最も近い日である昭和三一年一月一五日に同訴外人から買い受けた砂利一坪当りの仕入金額は一、五〇〇円であることが、それぞれ認められ、右の認定に反する証拠はない。従つて、前同様の方法により右期首の一、六〇〇円、期末の一、五〇〇円を以てそれぞれの砂利一坪当りの価額と認めるを相当とし、これに期首、期末の各在庫量前記当事者間に争いのない期首の三坪、期末の二坪をそれぞれ乗じた期首の四、八〇〇円、期末の三、〇〇〇円を以つてそれぞれの砂利の棚卸金額と認める。

4  フエルト紙(期末)

前顕甲第八号証、弁論の全趣旨によりその成立を是認できる乙第九号証(八木亀次作成の入交産業調書)によれば、原告が昭和三〇年度の期末に最も近い日である昭和三一年二月八日訴外入交産業から買い受けたフエルト紙一巻当りの価額は二八〇円であつたことが認められ、右の認定に反する証拠はない。従つて、前同様の方法により右二八〇円を以て期末のフエルト紙一巻当りの価額と認めるを相当とし、これに期末のフエルトの在庫量前記当事者間に争いのない一四巻を乗じた三、九二〇円を以つて期末の棚卸金額と認める。

5  酸化鉄(期首、期末)

前顕甲第八号証によれば、原告が昭和三〇年度の期首に最も近い日である昭和三〇年四月三日に訴外白神商店から買い受けた酸化鉄一キログラム当りの価額は一四円であり、さらにそれの仕入運賃が九、九九〇キログラムについて一万五、四八〇円であることが認められ、右仕入運賃は一キログラム当り一円五四銭であることは計算上明らかであるので、一袋三五キログラム入であるから右の合計一五円五四銭を三五倍した五四三円九〇銭が一袋当りの価額であると認められ、右の認定に反する証拠はない。また同号証によると、原告が昭和三〇年度の期末に最も近い日である昭和三〇年一一月二五日に右白神商店から買い受けた酸化鉄は一キログラム当り一二円五〇銭であつたが、それについて四、八七五円の値引きがなされていること、右の仕入運賃は九、九九〇キログラムについて一万三、三三〇円であることが認められ、右の値引額を控除したうえで一キログラム当りの価額を計算すると一二円〇一銭であることおよび右仕入運賃の一キログラム当りの価額は一円三九銭であることは明らかであり、右の合計金額一三円四〇銭を前同様三五倍した四六九円が一袋当りの価額であると認められ、右の認定に反する証拠はない。従つて、前同様の方法により期首、期末の各酸化鉄一袋当りの価額、すなわち期首の五四三円九〇銭、期末の四六九円を以つて期首、期末の各酸化鉄の一袋当りの価額と認めるを相当とし、これらに期首、期末の各酸化鉄の在庫量、すなわち、前記当事者間に争いのない期首三六袋、期末二一袋をそれぞれ乗じて得られる期首の一万九、五八〇円、期末の九、八四九円を以つて酸化鉄の各棚卸金額と認める。

6  釘(期首、期末)

前顕甲第八号証によると、原告が昭和三〇年度の期首に最も近い日である昭和三〇年五月一三日に、訴外中津金物店から買い受けた釘一貫当りの価額は三二〇円であること、また同年度の期末に最も近い日である昭和三一年一月一四日に同訴外人から買い受けた釘一丁当りの価額は四、二五〇円であることが認められ、釘一丁は一六貫であるから一貫当り二六五円六二銭となることは計算上明らかである。以上の認定に反する証拠はない。従つて、前同様の方法により右の釘一貫当りの期首の三二〇円、期末の二六五円六二銭を以て期首、期末の価額と認めるを相当とし、これらに期首、期末の各在庫量、すなわち前記当事者間に争いのない期首の二貫、期末の四貫をそれぞれ乗じた金額、すなわち期首の六四〇円、期末の一、〇六二円を以てそれぞれの棚卸金額と認める。

(三)  材料仕入高

材料仕入高は、別紙品目別仕入金額対比表記載のとおり砂利、酸化鉄、塗料については当事者に争いがない。

1  セメント

前顕乙第三号証、前顕証人八木亀次の証言によりその成立を是認できる乙第四号証(前記田部商店作成の同商店が訴外松坂幸有に販売したセメントの数量明細書写)によれば、原告が昭和三〇年度において右田部商店から買い受けたセメントの代金合計額は三〇四万二、八〇〇円(乙第三号証の売上金額の累計額三三一万五、九七六円から前記繰越の二五万八、五三六円およびセメント以外のフエルト紙九、二二〇円、石灰一、〇〇〇円、漆喰四、四二〇円の合計一万四、六四〇円を控除した金額。)であることおよび松坂正喜(前顕原告会社代表者松坂有常の尋問の結果によると、松坂幸有は通称で、正喜が本名であることが認められる。)名義で田部商店から同年度中にセメント二五万二、〇〇〇円相当を買い受けていることが認められ、右の認定に反する証拠はない。そして、前説示のように松坂正喜は原告会社の代表者であつた者であつた、原告会社と別にセメントを消費する事業等を営んでいたものと認めるに足りる証拠が存しないので、右松坂正喜名義による買い受け分も原告会社のそれと認めるを相当とし、よつて右の合計三二九万四、八〇〇円が昭和三〇年度における原告セメント仕入高であると認めるを相当とする。その算式はつぎのとおりである。

セメント仕入高=(田部商店の売上総額)-(期首繰越)-(セメント以外の売上分)+(松坂幸有名義分)

=3,315,976-258,536-14,640+252,000=3,294,800

2  フエルト紙

前顕乙第三号証、第九号証によると、原告は昭和三〇年度において前記入交産業株式会社からフエルト紙を一一万九、三七〇円、前記田部商店から同じく九、二二〇円の合計一二万八、五九〇円を買い受けていることが認められ、右と一部金額を異にする前顕甲第八号証の記載部分は、右の各証拠と対比するとにわかに信用できず、他に右の認定を左右するに足りる資料はない。従つて、右一二万八、五九〇円を以つて原告の昭和三〇年度におけるフヱルト紙の仕入金額と認める。

3  釘、針金

原告が別紙品目別仕入金額対比表原告欄において主張する釘、針金の仕入金額一〇万二〇〇円のうちには、前顕甲第八号証によると、原告が昭和三一年一月一四日に前記中津金物店から買い受けた釘代金四万二、五〇〇円のうち昭和三〇年度末現在において未払いとなつている二万円が含まれていないものと認められるので被告主張のとおりこれを加算した一二万二〇〇円が釘、針金の仕入金額であると認める。

4  その他

原告が前同様に主張するその他の仕入金額のうちは、前顕甲第八号証に記載されている原告が前記田部商店から買い受けた漆喰一万一、七九六円、石灰二四〇円がそのまま含まれているが、前顕乙第三号証によると右漆喰は四、四二〇円、石灰は一、〇〇〇円であると認められるので、両者の差額七、〇一六円を右原告主張金額の三万五、四三九円から控除した二万八、四二三円が昭和三〇年度におけるその他の仕入金額と認めるを相当する。

(四)  総売上高

原告の主要営業品目であるスレートとフエルト紙の売上高を推計してその総売上高を算出する外に直接証拠によつてこれを算出できないことは前説示のとおりであるから、以下右の推計によりこれを算出することとする。

1  スレート

スレートの製造枚数を直接証拠により算出することができないことは前説示のとおりであるから、これをその主要材料であるセメントの消費量から逆算して推計し、その売上金額を算出する外はない。

(1) セメントの消費量

前顕甲第八号証、乙第三、四号証、成立に争いのない乙第六号証(原告作成の商品仕入および売上商品セメント販売額明細書)によれば、原告が昭和三〇年度において仕入れたセメントの数量は、原告名義のもの七、二一五袋と前記松坂幸有名義のもの六〇〇袋の合計七、八一五袋であること、原告が昭和三〇年度においてスレートの製造に使用せず、セメントのまま他に転売したものが六〇二袋であることが認められ、右の認定に反する証拠はない。そして、昭和三〇年度期首現在における原告のセメントの棚卸高は四三四袋、同年度期末現在における棚卸高三一袋であることは前記のように当事者間に争いのないところである。そうすと、昭和三〇年度において原告がスレート製造のために使用したセメントは右の原告名義で仕入れた七、二一五袋に、松坂幸有名義で仕入れた六〇〇袋と、同年度期首現在における棚卸高四三四袋を加算し、これから右期末現在における棚卸高三一袋とセメントのまま他に転売した六〇二袋を控除した七、六一六袋であると認められる。

(2) セメント一袋当りのスレート製造枚数

証人松浦正一の証言によりその成立を是認できる乙第七号証成立に争いのない乙第一一号証の一ないし四、同第一二号証の一ない八、同第一三号証の一ないし五、同第一四号証、甲第一一号証の一ないし五、右松浦、証人三谷豊樹の各証言によると、原告会社と同一高知県下にあり、かつ原告会社と同様水圧式により同種のスレートの製造をなしている南海スレート株式会社は、昭和三〇年頃には既にJIS(日本工業規格)表示許可を受けており、当時から法人税法上の青色申告法人であること、同社の昭和三〇年度中におけるセメント一袋当りのスレート製造枚数は四三・五枚であつて、すぐれたスレートであること、他方原告は、昭和二九年一一月にJIS表示許可申請をなし、翌三〇年三月から四国通商産業局の担当係員の調査を受けているが、南海スレート株式会社に比しその設備の点で見劣りはなく、右調査における製造スレート中には日本工業規格に定める基率に牴触したものはわずかに重量の点で一枚あつたにすぎないことが認められ、右の認定に反する証拠はない。そうするとセメント一袋当りのスレート製造枚数を認定する直接証拠のない本件においては右南海スレート株式会社の右製造枚数である四三・五枚により原告のそれを推計することが合理的であると認められる。もつとも前顕証人松坂吉教、原告会社代表者松坂有常本人(第二回)、証人沖通盛、中畠数一、山崎為吉の各供述中には、当時の原告のセメント一袋当りのスレート製造枚数は右四三・五枚より少なく、またその製品は南海スレート株式会社のそれよりすぐれていたとの供述部分があるが、製造枚数の点は単なる記憶にもとづくものにすぎずしてその根拠が明確でなく、いずれも前記証拠に対比すると信憑性に乏しく他に前認定の事実にもとづく推計の合理性を動かす証拠はない。

(3) よつて右南海スレート株式会社の製造枚数四三・五枚より〇・一枚少ない被告主張の製造枚数を基礎として推計すると、前記(1)において認定した原告の昭和三〇年度におけるセメント消費総量七、六一六袋に右の四三・四枚を乗じた三三万五三四枚が原告の昭和三〇年度におけるスレート製造枚数である。

(4) スレート破損枚数

前記(2)におけると同一理由により南海スレート株式会社の破損率、すなわち前顕乙第七号証証人松浦正一の証言によつて認められる製造から出荷前までの間の破損率〇・六二八パーセントおよび出荷から買主に届くまでの間の破損率〇・三パーセントを基礎として推計するのが合理的であると認める。もつとも、前顕証人松坂吉教、原告会社代表者松坂有常、証人桑原嘉吉の各供述中には、原告の破損率は右南海スレート株式会社の〇・六二八パーセントより多いとの供述部分があるが、いずれも単なる臆測にすぎず、その根拠が不明であるので、これらを以て右推計を不合理ならしめることはできない。そこで、右南海スレート株式会社の破損率〇・六二八パーセントより多い被告主張の製造から出荷前までの間の破損率〇・六三パーセントおよび出荷から相手方に届くまでの間の同率の破損率を基礎として推計すると、

a 製造から出荷前までの間の破損数

これは右〇・六三パーセントを前記(3)において推計した原告の昭和三〇年度におけるスレート製造枚数三三万五三四枚に乗ずることによつて算出され、二、〇八二枚となる。

b 出荷から買主に届くまでの間の破損枚数

これは原告の昭和三〇年度におけるスレートの製造枚数の右三三万五三四枚から右aにおける破損枚数二、〇八二枚を控除した枚数に右〇・六三パーセントを乗ずることによつて推計され、それは一、九七三枚となる。

そして、右aにおける破損枚数二、〇八二枚と右bにおける破損枚数一、九七三枚とを加算した四、〇五五枚がスレートの破損枚数である。

(5) 売上スレート総枚数

これは前記(3)において推計した原告の昭和三〇年度におけるスレートの総製造枚数三三万五三四枚に、前記(二)において説示のように当事者間に争いのない同年度の期首現在におけるスレートの棚卸高四万二、一八三枚を加算した三七万二、七一七枚から、前同様当事者間に争いのない同年度の期末現在における棚卸高五万八、八九八枚を控除した三一万三、八一九枚に、前顕乙第六号証、成立に争いのない乙第八号証によつて認められる原告が同年度において他から仕入れたスレートの数量一、五五六枚(該認定に反する証拠はない。)を加算した三一万五、三七五枚から、さらに前記(4)において推計した破損枚数四、〇五五枚を控除した三一万一、三二〇枚が同年度における原告のスレートの総売上枚数となる。

(6) 原告納品明細書(甲第六、七号証)記載枚数のうち脱漏とみなされる枚数

これは、右の売上スレート総枚数三一万一、三二〇枚から前記(二)1において認定した前顕甲第六、七号証の原告の納品明細書(一)、(二)に記載の総枚数二四万九、九五四枚を控除した六万一、三六六枚である。

(7) スレート一枚当りの販売価格

前顕甲第六、七号証の原告の納品明細書(一)、(二)によると、スレートの販売価格は、その種別、色別によつて異なり、また同一スレートでも販売先によつてその販売価格が異つていることが認められるので、スレートの販売価格を正確に計算することは不可能であるため、右納品明細書(一)、(二)に記載されているスレートの売上高合計七〇七万八、二九五円を同記載の合計枚数二四万九、九五四枚で除して得た二八円三一銭を全スレートについてのスレート一枚当りの販売価格とし、また右甲第六、七号証によると、販売全スレート中地瓦はその七一・五六パーセントであることが認められるので、地瓦の右納品明細書(一)、(二)に記載されている売上高合計四六三万三、五二七円を、同記載の地瓦の合計枚数一七万八、八七四枚で除して得た地瓦一枚当りを価格は二五円九〇銭であるので、価格において低く、その占める割合の多い地瓦の右一枚当りの販売価格二五円九〇銭を本件推計計算のスレート一枚当りの販売価格とすることが相当であると認められる。

(8) 原告納品明細書記載脱漏金額

右(7)において推計したスレート一枚当りの販売価格二五円九〇銭を、前記(6)において算出した原告納品明細書記載脱漏枚数六万一、三六六枚に乗じた一五八万九、三七九円が右脱漏金額である。

(9) スレート売上総額

右(8)において算出した原告納品明細書記載脱漏金額一五八万九、三七九円に、前記(7)において算出した右納品明細書記載のスレートの総売上金額七〇七万八、二九五円を加算した八六六万七、六七四円が、原告の昭和三〇年度におけるスレートの総売上額である。

2  フェルト紙等の売上金額

前顕甲第六、七号証によると、原告が昭和三〇年度においてスレート以外の物品を販売したのは、フエルト紙一八万四、〇九四円、亜鉛引釘七万九、七〇〇円、葺上料五万九、三〇六円、ビニール料四万七、八二四円、銅線四、一八七円、セメント二五万八、八六〇円、運賃六万二、五六五円、赤土四〇〇円、石灰二五〇円、漆喰一、五二五円、色粉一、七五〇円、瓦桟七九円、タルク二八〇円の合計七〇万八二〇円であると認められ、右の認定に反する証拠はない。

3  純売上高

前記1、2において算出した原告の昭和三〇年度におけるスレートの売上金額八六六万七、六七四円にフエルト紙等の売上金額七〇万八二〇円を加算した九三六万八、四九四円が同年度における原告の合計売上金額であると一応計算されるが、前顕甲第六、七号証によると、売上値引額があることが認められるので、この点を考慮しなければならない。そこで、右甲第六、七号証に記載されている昭和三〇年度中に入金済みとなつている売上金額の合計五五九万二、四九四円から入金済み金額の合計五五四万五、一二三円を控除した四万七、三七一円の右五五九万二、四九四円に対する割合が〇・八五パーセントであることは計算上明らかであり、これが同年度における入金済み分の売上値引率であるので、前記合計売上金額九三六万八、四九四円に右〇・八五パーセントを乗じて得られる七万九、六三二円が同年度における売上値引額と認めるを相当とする。従つて右の合計売上金額九三六万八、四九四円から右売上値引額を控除した九二八万八、八六二円が原告の同年度における純売上金額となる。

四、以上の次第であるから、別紙損益計算対比表被告欄記載のとおり、原告の昭和三〇年度における法人所得金額は一三六万二二七円となるものであるから、その範囲内において決定された被告の原告に対する昭和三〇年度分の法人所得金額九〇万六、七〇〇円とする昭和三二年二月二日付の処分は適法なものであるというべきで、原告の本訴請求は理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 小湊亥之助 裁判官 渡辺昭)

(1) 損益計算対比表

<省略>

(注) 勘定科目(その他)とは、動力費、用水費、修繕費、消耗品費、運搬費、旅費、通信費、交際費、慰安厚生費、支払利息、賃借料、販売手数料、公租公課、宣伝費、雑費であつてその各金額について当事者間に争がない。

(2) 貸借対照表(原告)

<省略>

(注) 法人税の対象として損金として認められない役員賞与額10,500円は上記本期利益に加えられていない。したがつて本期利益金は56,795円である。

(3) 期首現在棚卸高対比表

<省略>

(注) ○印は当事者間に争いのない品目である。

(4) 期末現在棚卸高対比表

<省略>

(5) 製造原価計算書(被告)

<省略>

(6) 品目別仕入金額対比表

<省略>

(注) ○印は当事者間に争いのない品目である。

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